全日本エンデューロ選手権大会に行ってきた(その1)
先日、洞爺湖近くのルスツ(留寿都)村のBIGBEARで開催された「全日本エンデューロ選手権大会(JEC)」に行ってきた。スタッフとしてコース作りの手伝いや後始末を含めて4泊5日の日程だ。通常だと日高で行われるこの大会は、コロナの影響で地元の協力が得られなかったことから、場所をルスツ村の閉鎖されたコース(BIGBEAR)に移しての開催となった。参加台数は全国から約120台。そのうちの半数が北海道内からのライダーだ。JECには全日本戦と、地方選があり、それぞれ年間を通したシリーズ戦となっていて、通算のポイントで年間順位が決まることになっている。(2か)
全日本エンデューロ選手権大会に行ってきた(その2)
大会当日の朝9時。いよいよ2日間にわたるエンデューロレースが始まる。スタートは最も速い全日本公認クラスのIA(国際A)クラスから3台ずつ1分間隔だ。各自決められた時間にスタートしてコースを7周(IA)回り、毎周決められた時間に戻ってこなければならない。1秒でも遅れたり早く着いたりするとペナルティーが課せられる。またコース内には牧草地を爆走するモトクロス的なテストとアップダウンの激しい林間を爆走するエンデューロテストの2つのテスト区間があり、この2つのテスト区間でのタイムアタックの集計結果(7周分)で順位が決まることになっている。スタート前のIAクラス(赤ゼッケン)のトップクラスの雰囲気は一見和やかな感じに見えるが、心の中では互いに闘志を燃やしている。(2か)
全日本エンデューロ選手権大会に行ってきた(その3)
ライダーはスタートラインに3台ずつ並びMCからゼッケンと名前が紹介されたあと日章旗が振られてスタートする。今回はモトクロスのように一斉スタートして一番早く帰ってきたものが勝つというルールではなく、予め決められた時間にスタートして決められた時間に帰ってくるオンタイム制だ。アクシデントがなければ余裕を持って帰って来られる設定になっている。100台を超えるマシンの中には、この日のためにバッチリ調整してきたはずなのに、この時に限ってエンジンがかからないマシンもある。ライダーは焦る気持ちを抑えながら、観客の前で何度もキックする。何度も何度もキックして、ババ・ババ・バとエンジン音が聞こえたときは、本人だけでなく見ていた自分たちもホッとする。
いよいよルスツの山の中で全国から集まったライダー達のドラマが始まる。元気よく出て行ったライダー達が毎周回どんな姿でここに戻ってくるのか、記録を撮るのが楽しみだ。(2か)
全日本エンデューロ選手権大会に行ってきた(その4)
全日本で赤ゼッケン2番を付ける鈴木健二選手は新型ヤマハYZ250Fで参戦だ。3月の広島戦(第1戦)で昨年覇者の釘村選手を破って優勝しており、調子が良さそうだ。ヤマハに所属する鈴木選手は日高のような公道があるコースだと市販車(セロー)による参戦となるが今年は違う。ルスツは公道がないので軽量ハイパワーのレーサーでの参戦だ。国内屈指のライダーが爆走する姿を道内で見る機会は年に一度。今回はドロ混じりの牧草を蹴散らしながら爆走する豪快な走りを見ることを期待していたが、天気が荒れてスタッフ業務が忙しくそれどころではなかった。
今回のルスツ戦で自分が注目していた選手が二人いた。二人とも何年も前から道内の地方戦で年に一人しか認められない赤ゼッケンへの昇格を目指して頑張ってきている。今回を除けば残るレースは1戦のみ。二人の順位が入れ替わるとすれば、スピードを競うテストのスタートタイミングを自分で決められる(ライバルにブロックされることのない)今回のルスツ戦しかないと思っていた。(2か)
全日本エンデューロ選手権大会に行ってきた(その5)
ルスツの全日本大会も二日目のレースが始まり佳境に入ってきた。今は快晴だが山の天気はいつ変わるかわからない。そう考えている矢先に突然雨が降り出した。短時間の豪雨でそれまで回復傾向にあったコース状況が一変した。タイムチェックポイントにはドロドロになった車両が増えだし、下位クラスには遅着する車両が出てきた。今年IBクラスに昇格したばかりの140番中江選手は順調に走っているようだった。周回する度に自分の側に寄ってきて“オレを撮れ”と言わんばかりにガッツポーズを見せていく。相当気合いが入っていた。彼は今年の全道選手権でチャンピオンになりIAクラスへの昇格を狙っている。春からの成績はライバルの141番伊藤選手を数秒差でかわして2戦2勝中だ。今回のルスツ戦の一日目では中江選手が2位、伊藤選手は3位で両者とも全国の強者を相手に堂々の戦いぶりを見せている。今年IA昇格を狙う二人には例え小さくてもミスは絶対に許されない。(2か)
全日本エンデューロ選手権大会に行ってきた(その6)
2日目のレースは周回を重ねるごとにタイムチェックポイント(TC)に泥まみれの選手たちが集まり出した。一緒にスタートしたはずの選手はまた着いておらず、先にスタートした選手と一緒にチェックを受ける。チェック時間はバイクの前輪がTCラインを超えた時間で整理する。TCの電波時計が毎分00秒になるとオンタイムの選手と遅着した選手7〜8人がテントの中に一気に飛び込んでくる。選手たちは急ぐ必要がないはずなのに我れ先にとTCカードをスタッフに差し出す。中にはカードを紛失した選手もいる。スタッフは手際良く時間を確認しながらカードを再発行する。彼女たちは雨でレースが荒れると弁当を食べたり休む暇がなくなる。そんな作業をしているところに今年IA昇格を狙う141番の伊藤選手が4周目を終えて戻ってきた。あと2周回ればレースが終わる。(2か)
全日本エンデューロ選手権大会に行ってきた(その7)
TCポイントに到着した141番の伊藤選手はかなり疲れていた。泥の付いたグローブのままTCカードを出そうとしている。どうやら滑ってバイクもろとも道路脇に落ちて、復帰するのに相当体力を使ってきたらしい。彼は今年高校を卒業したばかり。小さな頃から道内のモトクロス戦にも出ていてかなり速い。エンデューロの道内戦では時々赤ゼッケンよりも良い記録を出して注目されていた。しかしIBといえども百戦錬磨の選手達が参加する全日本のレースになると速いだけでは勝負にならない。降雨時のスリッピーな路面を転ばずに走る方法や、ガレやヌタ場の走り方、檄坂の上り方などのほか、水没したり、轍にはまって抜けられなくなったり、路肩に落ちて上がれなくなったりした時の対処法を日頃からいかに会得しているかということが成績となって現れてくる。エンデューロはまさに自分との戦いだ。もう少しで終わる。彼はうつろな目でスタンディングしながらコースに出て行った。(2か)
全日本エンデューロ選手権大会に行ってきた(その8)
二日間のレースも終盤に近づき周回数の少ない選手達が最終タイムチェックを受ける姿が増えてきた。ゴールインした選手達はみんな泥だらけになりながらも何故か顔は微笑んでいる。承認CWクラスに参加した718番の村井はるか選手もその中の一人だった。ヘルメットの中の顔は泥だらけながらも微笑んで白い歯が見えている。全日本を走り終えた安堵感と達成感に満ちた慢心の笑顔だ。全日本を完走した達成感は半端なく高い。出場した者にしか味わえない辛さや、辛いながらも完走した者しか味わえない喜びがあるからだ。自分はレースを終えたあとの選手達のこの笑顔を見るのが何よりも好きだ。彼女は今回、女性だけのクラス(CWクラス)で見事優勝した。先日、外国社製の新型バイク(150cc)を購入したという噂も聞いており、今後はミニモト85ccからフルサイズの150ccへ乗り換えて本格的に上位クラスへの昇格を目指すようだ。今後がますます楽しみになってきた。(2か)
全日本エンデューロ選手権大会に行ってきた(その9(完))
ルスツで初めて開催された全日本選手権が終わった。IAクラスは両日とも鈴木健二選手の圧勝だった。注目していたIBクラスの道内勢二人のうち、伊藤選手は制限時間オーバーでリタイヤとなった。中江選手は総合で2位に入賞し、この時点で彼のIBクラス全道チャンピオンが確定した。来年からは国際A級(IA)ライダーに昇格だ。
レースを終えた後の選手達の表情は明るい。そこには参加した者同士にしか通じない辛さや楽しい会話がある。バイクの下敷きになって途方に暮れていたら、お互い様だと言って、見ず知らずの選手が助けてくれることもある。自分も何度も助けられた。こうした経験を積んで上手くなる。そして速くなる。
エンデューロの好きなところは、自分一人で自然と戦いながら、何回失敗しても立ち上がって、少しでも前に進もうとする自分との戦いがあるからだ。これを見るためにこれからも頑張る選手たちの記録を撮り続けるつもりだ。(2か)
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